アメジスト/やまうちあつし
を降らせ続けるはずだ」
男は席を立ち
娘に握手を求めた
娘は少しためらいながら
男の手を握り返す
手を離す時に見えた
男の手のひらは
紫に染まっていた
年がら年中
この雨の石を
握りしめていたからだろう
少女は自分の手のひらも
紫色に染まってはいないかと
男に気付かれぬように確認したが
手のひらは桃色のままだった
男が去った後
喫茶店のテーブルで
娘は雨の降る石を眺めていた
降り注ぐ雨粒を見つめていると
石の中に別のものの影があることに気が付いた
街だった
高層ビルや平屋の民家や
町工場や駅や教会
大小さまざまの建物が
雨にうたれているではないか
それは娘が生まれた街のようでも
未だ見知らぬ街のようでもあった
とうに冷めてしまった紅茶を飲み干すと
娘は席を立ち
店を出た
外ではいつのまにか
雨が降り始めていた
娘は傘を持ってなかったが
そんなこと気にもせず
雨の降る街の中へ消えて行った
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