ふるえる手/為平 澪
 
タイトルを 聴いていたり見ていた記憶は遠く
目的地に辿り着いても 杖を手放せないまま
動けなくなった母の身体を揺さぶり 降車ボタンを押すと
私の手にも薄気味悪い暗黙の了解が夕暮れの顔をして降りくる

ふるえる母の手を見ていると
逃れられない大きな不随意運動が伝わって
私の首をますます斜めに傾ける

選べない一軒の総合病院の不透明な薬袋の膨らんだ白い企みを
何も言わない乗客たちは 俯いたまま大事そうに抱え込む

老人バスを振り返り 彼らを見送る頃には
夕陽が沈む遠い山で バスは真っ黒に焦がされる

戻る   Point(8)