辛夷/藤鈴呼
 

風邪を引いたら桃缶と相場が決まっている家庭で
炬燵に蜜柑を乗せる程のステータスには包まれなくて

冷風を待ち侘びながら真夏に食べた冷風麺は
かの土地で「冷やし中華」と呼ばれた風

素材も見た目も同じなのに 味が違うのはどうしてと
幼子のきょろんとした目に見詰められた時のような歯がゆさ

上手く説明出来ないのだ 目の前に御玉がないから
救おうとした桃の実も 腐ってしまう季節だからね

一体 旬は 何時なのだろうと独り言

全国各地のスーパーで 何時でも売ってる桃缶を
パクリ 口に入れたが最後 ウッと呻いてしまいそうで

吐き出すのは桃ではなくて 咳とか痰の筈なの
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