赤目の夏/為平 澪
 
通の言
葉は崩れ落ち、充血の目玉が大量生産され、スマホの電波だけが喋り続ける。
眠れない夜から、私たちは疲れた朝の縁に立ち、夜に向かって出勤して迷路
に潜る。

凍えた目玉たちは血走って腐っていく、玉子の未来。
詰め込まれた怒りを宿して、私たちはどこに行きつくのだろう?

冷ややかな蛇行を繰り返す蛇に操られながら、玉子は朦朧と溶けて、一つずつ
腐っていく。黒目の幼子があんなにも憧れていた新宿。ここにきたら新しく何
かを、生むはずだったものが、赤目の頃には殺されていく。

                 ※

透けすぎたナイロン袋からはみだした、絹豆腐のラッピングパックが指を突き
刺すと、指先からぷっくり膨れ上がる赤目が生まれる。それを見つめる私の目
が、また赤く腫れあがり、詰め込まれた猛暑が冷ややかに、体の中を蛇行する。

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