今吉とこま/狸亭
西北東三方を山に囲まれ
南東は関東平野に面する内陸県
高崎から下仁田を結ぶ上信電鉄沿線
南蛇井あたりの豪農の何代目かの曽祖父の放蕩がもとで
国を追われて富岡に出てきた祖父徳太郎は
赤貧洗うが如しであったという
祖母さわとの間に次男が生まれ
今吉と名づけられた
1905年12月2日のことである
隣町の七日市の家老職であったという
曽祖父の娘に生まれた祖母みつは
家のことなど何もできぬお嬢様育ちであったが
生花の宗匠だった祖父清太郎に嫁いだ
古流だか草月流だけでは食えないので
下駄やの手内職がいつしか本業となってしまったらしい
みつは三人の女を産んだが
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