東大寺にて/服部 剛
 
参道を無数の鹿が
長閑(のどか)なリズムで、歩いている

野球帽の少年が
鹿せんべいを
口許にやっては、はしゃぐ

首からカメラをぶら下げた
アメリカ人のおじさん

橙色の法衣を身に纏う
インドの僧侶達

赤いペアのTシャツを着た
中国人の若いカップル

佇めば
かれらは
傍らを過ぎてゆく

――時よ、僕を何処かへ運んでくれないか

石畳の道の
あちらこちらに散らばる
鹿の糞を避けて歩むうちに
近づく
門の向こう側に

巨大な寺

柄杓(ひしゃく)の水で
手を清めてから
本堂に入る

日本一の大仏は
旅人を待っていた
薄目を開いて、手をあげて

 やあ  





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