泥の月/Seia
 
池のほとりにすわって
スケッチブックを片手に
タガメを描いている

頭上には角ばった泥の月が
まだ明るい空に浮かんで
輝きだす頃を待ちわびている

おぼろげな深い場所
夏休みに行った
絵画教室を思い出す
丁寧に塗ったつもりでいた
淡いマコガレイが上書きされていく
振りあげられた筆
尾びれのあたりにふれるたび
にごる水の底

池の向こう側とおく
逆三角形の山がふたつ
並んでバランスを整えている

天駆ける馬が引くプリンターから
なにも描かれていない
B0の紙が排出されてゆく

(今日はもうこれぐらいで)
振り返るとひとり
わたしをみている
ひとがぷつりと消えた
近付いてみると足元には
くしゃくしゃの画用紙らしきもの
ひろげる勇気もなく
立ち去ろう
月がひかるまえに
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