木ノ声/服部 剛
夜の砂漠の果てに
無言の姿で立っている
ひとりの木
枝々の短冊は夜風に煌(きら)めき
忘れていたあの歌を
旅人の胸に運ぶ
――君の夢は何?
思春期に使い古した言葉は
遠い記憶の最中(さなか)に甦り
ひとすじの声になる
どんなに年老いても
日々に立ちこめる靄(もや)を掻き分けて
生臭くぎらつく、あの頃の
夢の欠片(かけら)を離さない
夜の砂漠の果てに広がる
星屑の下
いつまでも立っている
ひとりの木よ
もう一度、教えておくれ
あの日、傷ついた旅人が短冊に記す
物語の続きを
いつまでも
心象風景に立っている
ひとりの木
枝々の短冊は仄かに煌めいて
無言の歌を囁いている
夜明け前
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