夏、弾丸高気圧、殺人/北街かな
首筋から線香の匂いがするたび、まだ菊のなかにいない体を不思議に思う。
ズズドドン、パーン
脳のうらの泡の膜の底から弾丸が盛りあがってきて
ピーーィ、
眉間の方角に向かって光速が貫いていく、音はやはりすこし遅れていて
キュイン、
見えるものと聞こえるものがずっと一致していなくて
すばやく後ろを振り返って撃ち殺すまねをする、撃ち殺すまねをする、標的は何人も同じ顔で、私と同じ顔をした虚ろなノート、撃ちぬくまねをする、ぜんぶ忘れるために銃声を鳴らすゆめをみる、過去の私が全員しぬゆめを見る。
空想の硝煙に似た匂いに鈴の音がしだいに混じる。
白だけがぜんぶ覆いつくしてしまえばいい、
光速が、すこし遅れてくる破裂音で、
雲を影を蹴散らして、
完全な光だけの気候が、
ぜんぶを忘れるために無言の夏を支配する。
戻る 編 削 Point(1)