昔の魚/やまうちあつし
 
いと
 干からびてしまうから」
なぜ地下室に魚がいるのか、とか
なんという種類の魚か、とか
正面切って尋ねることがはばかられるほど
友人は何も気にせぬ様子で
淡々と仕事を片付ける
あまりにも平然とこなすので
ご近所のどこもこのような地下室を持っていて
こうして魚を保有しているのかと思ったほどだ
なにか証拠になるものを、とあたりを見渡すと
硬そうな青銅色の鱗が落ちている
友人が片付けを済ませているうちに
私はそれをそっとポケットに忍ばせた
その後リビングでひとしきり談笑し
遅くなったから、と友人宅を出た

自転車に乗って帰る途中
私はポケットをまさぐり
友人宅の地下室から持ち出した
硬い鱗を取り出してみた
すると鱗はみるみるうちに色が薄くなり
やがて空気中に
すうーっと消えてなくなってしまった

だからこの話も
君に信じてもらえないかもしれない

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