見上げれば/藤鈴呼
 

空から落ちてくる何かを
咀嚼しようとして
すっと伸ばした舌先を
寸での処で引っ込めたのは
雨粒の不味さを 体感したから

あれは屋根の雪
が 数日を経て象られた 氷柱
美しい刃先のようにも思えて
佇んでいた

ドサッと言う音と重さの全てが 
舌先を直撃し
真白だった雪の国に
要らぬ血液が 流れ始めた

屋根から外れた梯子が
所在なさげに
もう これ以上 
取り繕えないんですと嘆く
夫婦喧嘩のようだった

人は刺されたら 痛むのだろうか
肉片は 煮物を作るみたいに
フォークで穴を開ける訳には 
行かぬもの
ちょっと 息苦しい毎日が 
続いたと
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