したたれ/佐々宝砂
 
たことがあっただろうか?
ない。
そんなことはなかった。
ではこの千枚通しは、なに?

したたれ、と声がする。

わたしはわたしの指に千枚通しを突き刺す。
てのひらに突き刺す。
太ももに突き刺す。
抗えない命令に従って。

生ぬるい湯が入ったゴムの風船、
それがわたしだと思っていた。
でも。

わたしがしたたる、
赤いしずくがいくつもいくつも、
ぺちゃんこになったゴム風船から這い出して、
はじめての外の空気を胸いっぱいに吸い込む。
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