さいごはしとしとと雨/田中修子
 
いつか死の床で吹く風は、さらさらとして
すべての記憶をさらうでしょう
むせびないたかなしみは
いずれ天にのぼって雲になり雨とふる

信じているうちは遠ざかるものは
なにもおもわなくなるときにすべりこんできた
においたっていたむなしさはいま
しずかにみのってこうべを垂れているでしょう

ひそやかにあるのです
声高に求めずとも
すぐそこに、すべてが

死の床につくときに、記憶をさぐるように吹く風は
いましている息を重ねたものだから
さいごの溜息はきっと、雨上がりのいいにおいなのでしょう
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