その鍋に/オイタル
 
その鍋に火を入れよ
その朝を始めよ

倦怠は凛凛と暁の空を巡り
焦燥は烈々と白髪を靡かせる
緩い歯茎は寒冷なる蒼天の下
せわしくその切れ端を鳴らし
火を抱える膝頭は既に下る階段を
斜めに崩れ落ちんとはする
崩れ落ちんと
だがしかし

その鍋に火を入れよ
その朝を始めよ
労働の甘やかな香りと
飲み下せない後悔の酸味
薄い生活の肌触り
高らかに鳴る戦闘開始の耳鳴りに
渡りゆく飛蚊症の虫たち
それらすべてを飲み込んで

その朝に火を入れよ
その鍋を始めよ
鉄製のその鍋を
黒光りする鉄製のその鍋の勇気を
輝けるその朝に
その鍋の火を入れよ
早く

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