紅の裏切り者/藤鈴呼
 
なかったのだと 気付く

残り物を平らげないと
次の皿は 出て来ないのです
スプーンとフォークが煌めいて
日光をも反射すると
何かと健康的な錯覚は受けますが
錯覚は どこまで進んでも 幻覚
幻惑は どこまで嘆いても 味覚には
叶わないのです

そのイメージを作り上げる為に
嗅覚を働かせてみましたが
アンテナ一本立てるのを
どうやら忘れてしまったみたい
微々たる力を振り絞って 叫びます
その電話番号は ワタクシのものだけど
ダイヤル式の黒電話は
もう我が家には ないんだってこと

今日も 何かしらの音が響き
私は呼気荒く 叫ぶ代わりに
この子機を 握りしめる
ハイハットが合わさる角度で拍手をすると
スッと傷跡が 消えてしまうかのような幻想
それだけを 握りしめながら

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