夕べの祈り/ミナト 螢
 
私が生まれたその日の朝に
カナリアが鳥籠から逃げて行き

音の消えたリビングルームには
黒いグランドピアノが置かれて
私の居場所は椅子の上になった

ソナチネが弾けるようになっても
指先だけでなぞる鍵盤の
偽物の響きが嫌いだった

心を込めて演奏する事
恩師が亡くなり半年経って
追悼会の最後を締めくくる
月光を天国まで届けると

誰かに聴いて欲しいと思う気持ちが
私の中で大きく膨らんで
心が奏でる音楽の羽根を
白と黒に塗り分けてゆきたい
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