かつて勇者と呼ばれた者/たいら
を
己の存在全てを込めて
一人凱旋の道を往く
あの男は何者で何の為に戦っていたのか
結局その答は分からず終いで
残されたのは空っぽの自分だけだった
今はそれでいい、帰ろう
そう己を奮い立たせ
霧が晴れた世界を塔の上から一望したのち
元来た道を再び辿る
涸れた毒沼を渡り
草花芽吹く雪山を越え
腐臭漂う廃村を抜けて
故郷へ
かつて勇者と呼ばれた者は
求めていた答を生涯得ることの無いまま
羊飼いの家の、小さな庭のその片隅で
愛する父母と静かに眠る。
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