夜ばかり/うみこ
もしも真夜中がこれ以上長かったら
私は姿を変えて
あの街の塀の陰へ急ぐだろう
深海の鯨の死骸のような、
黒塗りの木のそばで、
優しい月を見つめ、
静かな排気のバイクで、
蛍光する速度制限の上を走ってゆく。
学生は(世)紀末テスト前、
バスに乗って、
星歌つながりでグループを作り、
万が一朝が来たときに備え、帰り支度を済ませ、
ゴーグルを着けてパン屋へ潜って行く。
詩人はノートをとりだして、
「夜の表面は、
海の深くで鯨が翻ったときの、
腹の白さに似ている、」と
書き残す
また、夜は蜂に刺されて、
椿の花を落とす。
ハイヒールは水の底に沈んでゆく。
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