人殺しアニー/塚本一期
 


9月1日
眠る前、枕元の明かりを消したら、あたしの中では 隣に君がいる日があったり いない日があったりした。
君は生きているのに あたしは幽霊のようなのに 幽霊なのは君かのように あたしは霞を掴もうとするかのように 階段で話をし、食卓で話をし、ぼさぼさ頭で目覚めては、誰もいない空間に向かって「ごめんね」と笑った。
将来はこのベッドで君が眠るのだと信じた。あたしは台所でせっせと食事の支度をするとおもった。車から降りようとする女の首を死ぬまで力いっぱい絞めるような気がした。
あたしは笑顔だ。明日、めいっぱいの笑顔で面接を受ける筈になっていた。たぶん受けた。確実に受けた。ピストルの引き金を引いてしまったのだ。またいない君に話しかけた。
君が実在する日まで、あたしは水に溺れた紙切れのように揺られて生きて、千切れ千切れになった。
君が実在する日を知らずに生きた。
昨日のあたしに言いたい。明日も同じ穴が胸に空いてると。一生そばにいる約束をした人がいなかったから。殺しに行きたくなったりしたから。いなくなってほしいとおもったから。
何も見たくなかったから。

戻る   Point(1)