風の国から/yo-yo
家の中が賑やかになった
古いひとびとは
古い言葉をつかった
声が遠いと母がぼやく
耳の中に豆粒が入っていると
同じことばかり言うので
子供らも耳の中に豆粒を入れた
ひぐらしの声で一日が明けて
ひぐらしの声で一日が暮れた
翅は青く透きとおり
せみの腹は空っぽだった
送り火を焚くと
ひとつずつ夏が終る
耳の中の豆粒を取り出すと
母の読経が聞こえた
きょうは目が痛いと母が言う
きのうは眩暈がし
おとといは便秘じゃった
薬が多すぎて配分がわからない
母の目薬は探せないまま
いくつもトンネルをくぐり抜けて
ぼくはまた船に乗る
とうとう風の言葉
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