命だった物/たいら
 
足裏に妙な感触
見れば蝉を踏んでいた
蝉踏んじゃった
わりかし大きな生物を踏み潰したという衝撃
いや待てよ
もしかしたら
いや十中八九
こいつは死んでいたのではなかろうか
それはもはや生物ではなく
生物だったもの
命だった物
亡骸に過ぎない
そう思うと気持ち悪さも罪悪感も
無くなったような
そんなものありふれているのだ
祭の後のGとか
シャッターの前の爺とか
そんなものたちにいちいち感傷を抱いていたら
きっと生きていけない
少なくとも上手な生き方ではない
踏み潰せ
命だった物を
土に還れ
命だった者よ
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