灰の肖像/ハァモニィベル
後に長く「クリート」と曳(ひ)くのであつた。
その神秘的な意味を解かうとして、私は・・・》
わたしは、床の上にぐったりと開いていたもう一冊。古い朔太郎の詩集を拾い上げ、「虫」という題のその散文詩の箇所をざっと読んでいたのをそこで止め、
本を閉じた。
そして、最初の事件を思い出す。
あの事件は、まだ迷宮入りしたまま、
だが、もう時効になっているわけでも、なさそうだ。
屋根裏で独り、書いてきたこの詩の
最後の一節を、いま、声を上げながらわたしが朗んでいる。
夜の屋根裏に独りゐる
疲れて、破れたわたしの前に
今日も風に吹かれて
詩人のおまへが
物悲しく、息づいている。
と。
*
(「蝶としゃぼん玉/【petit企画の館】」;《前後のSCENEを書く》参加作品です。 http://po-m.com/forum/i_thres.php?did=320890 )
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