方舟/やまうちあつし
わたしには方舟がある
1LDKの部屋
いっぱいの木造船
そこがわたしのベッド
そこがわたしの書斎
心配症なわたしの祖父が
一人暮らしのお祝いに
据え置いていったのだ
いつ来るとも知れぬ大洪水に備えて
わたしはおじいちゃん子だったから
そんな厚意を無碍にもできず
昼は会社で働き
夜は方舟に潜り込み眠る
そんな暮らしを続けるうちに
方舟はすっかり
生活に馴染んでいった
わたしは一日の大半を
そこで過ごすようになる
わたしはそこからテレビを眺める
世界ではテロや紛争や
貧困や虐待やリベンジポルノが
ひしめいている
祖父に感謝をするかも知れない
そんなこと考えながら
方舟でスパゲティをすする
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