タクシー/為平 澪
 
みんなに会いたいのかねぇ」

トイレで笑っていたシミだらけのおばちゃんは
母が親友だと無邪気に語った 横顔のままの女

同窓会は裏表を秘めながらも
ビールで思惑を酔わせ 口裏を合わせたかのように
シャトルバスは 母を残して
みんなを新しい朝の場所へ連れていく

一人、くだりの電車に乗り
また、遠い景色の桜吹雪に流されながら
母は知って、車内に杖を置き忘れて帰る

鞄の中の補助券が
どこにあるのかさえも 分からないままで
くだりのタクシーに体を横たえると
のぼりのタクシーを呼んだつもりで
どこまでも どこまでも 独りぼっち

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