カーテン/塔野夏子
それは 破綻だった 小さな部屋で
はじまっていた 壁が不必要に白すぎて
かといって 何を置けば あるいは ただひとつの
窓に 何色のカーテンをかければ その白が
中和されるのか わからなかった だから
その部屋は 窓ひとつだけがある 小さな
部屋だった 誰の存在も あるいは不在も
その白を浮き立たせるばかりだった だから
破綻は 気づかれないうちに 存分に
生きものみたいに育つことができた そして
十分に膨らんだそれに 気づいたとき ようやく
わかったのだ 必要なのは 私の不在だと
だから 窓を破った 窓は きらきらと
歌いながら砕けた 風が 破れた窓のかたちで
はいってきて 私と破綻に 触った 私と破綻は
同時に大きく深呼吸した なかったはずの
カーテンが 風に波のようにゆらめいていた
ゆらめくごとに 色を変えていた その窓から
出ていったのは 私が先か 破綻が先か
それはもうわからない
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