昨日/草野春心
 


  昨日 私たちは
  ぶ厚い夏の憂いの底で
  椅子に座り 黙って紅茶をのんだ
  西友で買ってきた安い氷菓子(アイスクリーム)を
  紙スプーンで交互に食べて


  フィルムに写ることのない贅にみちた時間
  片栗粉を塗された 生のままの食肉のごとく
  私たちは身動(みじろ)ぎもできない
  ほとんど あるいは全く
  今この刹那というものに漬けこまれ 型をとられ傷んでいく
  犬の吠え声 窓の縁の埃 果実の酸い匂い……
  席をたって部屋の奥にきえていく
  あなただったかもしれない誰か


  静けさのうちに
  赤く粗暴な叫びを抱いて
  夕暮が私たちとひとつになっていく
  緩慢な老いのながれに押されて
  壁に凭(もた)れたあなたの影さえ
  歳をとる やさしげに
  それともかなしげに


  明日になれば
  この時間を昨日とよぶ
  美しくもない愉しくもない
  正しさのかけらをも持たない
  愛の見なれた貧しさに 私たちはまた現を抜かす



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