死にゆくベイルートの空に光はない/狸亭
 
以って迎えられた
僕は新しい人々を見た
生きている人々を知った
運転手ハルチュンのキングコングのような体躯の中の
やさしい気持を知った
ハルチュンはアルメニヤ人で
美人秘書のサルピさんも
家庭的なアイーダさんもアルメニヤ人
オフィスボーイのラフィーもアルメニヤ人
アルメニヤ人 パレスチナ人 レバノン人 クルト族
スーダン人も僅かながら共に暮らしている
ベイルートは人種の坩堝で
フランス人もいればイギリス人アメリカ人インド人ニッポン人まで
神が与え賜うた最も恵まれた土地に
悪魔が跳梁する

ああベイルートは果てしない抗争の中で
今死にゆく
死にゆくベイルートの空に光りがないという。


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