夜の木/やまうちあつし
 
夜に
生長する木があるという
普通の植物のように
陽の光や水を養分とするのではなく
暗い闇の中
静寂と孤独を糧に
その枝を伸ばすのだという
そんなことは信じられないと
大抵の人は言う
報告をした植物学者は
嘲笑された
ところがそうでない人もいる
「先生、私は信じます。
 その木は暗い夜の底
 ひとりぼっちで
 地球に根を張っているのですね。
 そして誰に望まれるでもなく生長し
 どこへ向かうでもなく
 そこで生きているのですね。」
その女性はある宗教の信者であったが
信じることは選ぶことだと知っていた
彼女にはそれを選ぶことに
何の不都合もないように想わ
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