キラキラ/やまうちあつし
ある人が森の傍らに住んでいた
森は言葉を持っていなくて
淀んで鬱蒼としていた
ある日、森から
はじき出されたものがある
小さくてやわらかく
まだ何とも呼ばれていないものだった
その人は思案した
これをなんと呼ぼう
幸か不幸かその人の小屋には
言葉を記した書物などなかったので
あちらこちらを歩きまわって
そこらにあふれる音の中から
みつくろうしか術がなかった
そしてそれ以上
よい方法はこの世になかった
川のせせらぎや
風の鳴る音や
落ち葉を踏む音や
氷の軋る音から
文字や言葉を摘み取ってきた
そしてその日がやって来た
森の入り口で蹲る小さなものに
その人
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