月に祈る/あおい満月
 
蟹は、
何かの匂いを感じると、
月をぐるぐるまわるように、
先へ先へと急ぐ。

何かの匂い。

それは芳しい花の香りではない。
じっとりとした、
タールのような
油の匂いだ。

蟹は油を被りながら、
干潟のへどろの海のなかを駆け回る。

*

(ムナクソガワルイ)

今夜は月が見えないせいか、
彼女の胸元のムーンストーンが
沈黙している。
彼女にはわかっている。
自分の大切にしている、
分身に黒い影が近づこうとしている。

(マモラナクテハ)

彼女は彼が開いた口を、
今すぐ塞ごうとする。
彼女
[次のページ]
戻る   Point(7)