月に祈る/あおい満月
蟹は、
何かの匂いを感じると、
月をぐるぐるまわるように、
先へ先へと急ぐ。
何かの匂い。
それは芳しい花の香りではない。
じっとりとした、
タールのような
油の匂いだ。
蟹は油を被りながら、
干潟のへどろの海のなかを駆け回る。
*
(ムナクソガワルイ)
今夜は月が見えないせいか、
彼女の胸元のムーンストーンが
沈黙している。
彼女にはわかっている。
自分の大切にしている、
分身に黒い影が近づこうとしている。
(マモラナクテハ)
彼女は彼が開いた口を、
今すぐ塞ごうとする。
彼女
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