食歴/レタス
ぼくの最古の食べ物の記憶は
母の乳の味だ
いまだに憶えているんだ
兄弟姉妹の中で
ぼくだけが母乳で育った
何故かというと
当時の哺乳瓶の吸い口はゴム製で
ほんのと苦かったからだ
やがて缶詰のクリーミーな離乳食や雑炊
それにクタクタなうどんなんかだった
三歳くらいになると
口の奢った祖母に連れられ
寿司 鰻 天麩羅 蕎麦 etc…
祖母は口煩くて
不味いものが運ばれてくると
何だい?こりゃ!不味いねぇ!
とはっきり言ってしまう
祖父はたしなめるけれど
祖母はひかない
浅草生まれの気丈な女だった
その血の流れか
ぼくも以前は不味い物を出されると料理人を呼んだ
いまは丸くなり
不味い物は残すことにした
美味いものにはお礼を欠かさない
母にも結構文句を言ったものだ
けれど母の味を想い出すと涙が流れてくる
本当は美味かったのに
あらためて母に感謝したい
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