私の大好きな哀川さん/瑞海
 
重みに耐えられない感じがとても素敵ね」


哀川さんはどんな本を読むんだろう
哀川さんはどんな曲を聴くんだろう
私の哀川さんに対する印象と
哀川さんの私に対する印象とが
合わさることは
生まれ変わったって二度とない

私は突っ立って時間の速さに
相槌打っているだけだ
もちろんその様子だから
哀川さんの話をただ聞いている
だけだったのだけれど


それからちょうど56日経った日に
私の大好きな哀川さんは
雪が珍しく積もった日の夜に
街一番の桜の木の根元の雪の下に
埋もれて亡くなっていた
それからの春に咲いた桜は
私には赤がかっているように見えた


という思い出を家の前に咲いた桜を見て思う
あれからもう10年も経っているのに
孤独だ、と感じる時
醜い、と感じる時
彼女の光が瞼の裏に刺さる

桜を見るといつも思い出す彼女は
これから先の人生も
私の脳裏を舐め続ける

いつまでたっても大好きよ
と彼女にも言って欲しいという
欲望が体を蝕むまで
もう時がない


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