仙境/レタス
岩山の岩壁の岩棚に
産み落とされたぼくは
産声もあげず
銀の龍に鷲づかみされてしまった
遠い記憶の底
あれから言葉など誰も教えてくれなくて
ぼくは誰とも話などしたことは無い
西の山際の桃園の天女たちも頬笑むだけで
ぼくに語り掛ける者などはいなかった
ただ
白く長い眉毛と髭を蓄えた老人だけが
ぼくに文字を教えてくれた
老人は睨み付けるか
腹の底から笑うだけだった
だからぼくも
睨み付ける事と
笑う事しか出来ないでいる
明日は東の梨園に出かけて少年たちと遊んでみよう
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