朗読の講堂/マチネ
 
大きくはない講堂で
詩人の声がしている

詩人の声は講堂よりも小さく
低いところを這うように響くから言葉のつぶは分からない
絨毯だけが分かっている
水を吸い込む時のように、そこだけが深い赤となる

森の木はすべてわたくし
煤けた幕もまたわたくし

詩人の声は思い出す時の死者の声

講堂は文学館の中にあり
文学館は冬の中に
閉ざしてある木の扉を押すと 涼しさ

開かれて、息を絞りだした
幼い蒸気
吸うと
水の匂い

わたしの上に雪がつもり
じっとりと溶けてゆく

わたくしはこの雪のひとひら
わたくしは講堂のあの絨毯

風見鶏の音がして
振り返ると
もう冬のいかづちが迫っている
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