あの日/レタス
 

あの楡の巨木の根元に君を座らせ
モノクロ写真を撮ったね
あの川の傍らで

いきなりの雷鳴に
君は慄き
ぼくの腕を掴んだ
豪雨がぼくたちを襲ったのは瞬間のことで
やがて空は晴れて
鮮やかな虹がぼくたちの瞳に映っていたね

傍らのせせらぎにまなこを落としてみれば
普段とは違う
銀色の身体を紅く染めながら
荒々しいヒメマスたちが流れを遡っていた
それは必死の形相で
猛々しく
魚たちは遡る
命を捨てるように
歓喜の絶頂を得るために
遡ってゆく

深い森の奥から
鹿の嘶きと
小鳥のさえずりが聞こえてくる
安息の時間は
まるで永遠のようだ
静かな時計が微笑んでいるだけ

いまはもう
そこへ往く路を忘れてしまった

昨日も今日も明日も
都会の迷路を漂うだけ

あこがれのハートランドは
記憶の底にある



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