時のゆりかご/西天 龍
さ以外に
養蚕農家の暮らしにみじめさを感じたことはなかった
製糸工場に繭を運ぶ荷車に乗せてもらったのは
誇らしくさえあったが
今思えば、消えゆく養蚕さえ手がけなければならないほど
貧しかったのかと、両親の苦労を思う
製糸工場の後には東京からさまざまな工場が疎開してきて
この地は電子、精密機械の街に変わった
父も桑園を捨て、工場に働きに出た
我が家の歴史は
時代に翻弄されながら、でも一生懸命生きてきた
父や母、そしてはるか昔この地に根付いた
おじいちゃん、おばあちゃんたちの記憶
そんなゆりかごで育てられたことを
今改めて誇りに思う
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