空白の壁の前に立ち、ただひとつを独白するために/北街かな
 
ィスプレイに映し出されている
成層圏をとりかこむほどスクリーンが立ち塞がっていく
たったひとつの言葉をえらびとるのを
ただひとつを念願するのを
母語に打ち勝つ瞬間を
脆弱な声帯が待ち望んでふるえている

独白するべき言葉は見つかったか?
私はおおきく息を吸ってひとことめの子音を繰り出すまねをする
夜のカーテンはおののき後ずさってゆき
明けていく地平線に細かな市街をばらまいて
独白するべき言葉を、くちにしかけた

まず最初の音素は
ひどく、もったいつけて
臨終のそのときのように
未練がましく
絡まりながら
ちぢこまりながら

聞こえますか?


言葉は、

ほら




「         」




だれかの耳のうらがわに
届け
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