御見舞/
七
あまい香りが部屋じゅうにひろがる
そこへ母が現れて
あら桃ね、切りましょうか?と言う
しどろもどろしているわたしを
訝しげに覗きこむと
さっさと台所へ箱ごともち運び
あっという間に桃ひとつを切り分け
さあ召し上がれ と言う
果汁がしたたるあまい桃
たいしてかみ砕かずにごくりと飲み込んで
扇風機のスイッチを入れる
いまのがどのひとつだったのか気にしながら
さきほど剥がした「御見舞」ののし紙が
折れ曲がってひらひら動くのをじっと見つめていた
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