やわらかい場所に/末下りょう
べつのぼくが生まれ、そのべつのぼくがまたちょうどいいおっぱいをさらにはげしく揉みしだく。命を賭けるなにかをみつけていない者は生きる資格がないとキング牧師はスピーチしておりましたが、ぼくには命を賭けるととりあえず決めたちょうどいいおっぱいがある。布団叩きはやめられない、叩きすぎると松岡修造は言っておりましたが、ぼくはちょうどいいおっぱいを揉みすぎる。やめられない。なんどもなんどもそのやわらかさに足をとられてやはり部屋の時計は止まる。ちょうどいいおっぱいそのひと揉みひと揉みが目的そのもののように優しくゆれ、ときに激しくゆれる。ぼくたちがいちばんよく知っていることはなにか。くっついてはなれること。なによりも中身じゃなくちょうどいい容れものをさきにつくること。そうやってあとから来るであろう誰かのためにちょうどいいおっぱいをぼくはきょうも揉みしだくのだから。食う。練る。遊ぶ。たまに寝る。ちょうどいいくらいのやわらかい場所には死体がいっぱい埋まってる。
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