37.5℃/竹森
いずれ、土に還る事が出来るのならば。
幼い日に盗み出して、捨てる事も返す事も出来ないでいた母親の口紅を、今更、箪笥の奥から取り出して、鏡の前で、自分の唇に塗ってみた。すると、穏やかな圧力でなぞられて、その感触を覚えてしまった唇が、もう一度、と、僕に口づけの体験をせがみ出した。口づけも、やはり、射精と同種の欲求なのだと結論付けようとし、それは早急だと思いなおす。ただ、どちらも人間の最も基本的な欲求の一つで、産まれた時から目覚めてはいない。
そうして僕は、鏡に映っている唇の紅色に見惚れている。ああ、女装癖に、目覚めてしまいそうだ。
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