ある鯉の幸福/opus
れの振動を体に伝わらせる事の方が
彼にはパンよりもさらに幸福を感じられる事だった
夜になると川に星が満ちる
皆は明日のパンのために体を休めるが
その鯉は星の瞬きに目を見張らせていた
じっと、星を見ていると
周りの世界と空が混同し、
まるで自分が星の中を漂っている気分になった
星々は力強く瞬き
彼に温もりと喜びを
与えてくれた
そうして、体が火照ってくると
まるで自分も星の一つであるかのように思い
ならば、より瞬こうと
力を入れると
さらに増した温もりと喜びが
彼を包み込むのだった
そうして、
その鯉は生きた
そうして、
その鯉は死んだ
他の鯉の半分程の寿命しか生きられず
子供も作らず
どの鯉にも気づかれぬまま
静かに、
溝から川の下流へと流されていった
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