旅人の木/やまうちあつし
の名前が変わって
何が幸せかということも
考えが少し変わってしまった
それは悪いことではなかっただろう
どんなものでも
幸せはよいものに違いないのだから
しかし旅人は
いささか疲れすぎていた
新しい幸せの中を
これまで同様旅をするには
マントは煤と埃で汚れすぎていた
やっとのことで
いつもの宿に戻ってきたとき
旅人の背丈をはるか越えた
大きな樹木に出迎えられた
旅人はそれが目に入ってか入らずか
よろよろと倒れこむ
育った樹木は枝を折り曲げ
旅人を抱きとめた
おかえり、という言葉が生まれたのは
そんな火曜日のことだった
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