君に触れるということ/竹森
抱いて
いませんでした
抱いて
いたのは
喪失感
だけでした
僕は
手が
手だけが
ゴキブリの
弾力に
慣れており
手が
手だけが
ゴキブリを
憶えて
おり
故郷だと
感じて
おり
ナナは
しかし
一晩を
かけて
その手で
僕の
手を
ほぐして
慰めて
くれ
まし
た
僕が
ナナの為に
いや
僕自身の為に
用意した
ショーケース
地下の
換気扇の
唸る
拷問部屋
そこで
用いる為の
多彩な
器具
たとえば
大きな
首切り
包丁
それらを
全て
捨て
僕は
再び
善意の
人に
なろうと
決め
ました
たとえば
蟷螂
それを
シュレッダーに
詰めて
この世界
より
美しい
世界
に
送り届ける
人に
なる
のも
良いと
思い
ます
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