ザッツ;泣き女/アラガイs
 

…いっしょに泣いて差し上げましょう…

からまる蔦をふりほどきながら
女は石段の脇で踞る若い僧侶の傍に偲びよって行く
立ち込めていた靄の薄い生地を開いた

かわりに一枚ほど借りていいですか、と女は尋ねたが
色白で坊主頭の男が取り出した墨皮の財布には、一枚の札も入ってはいなかった

虚ろな眼差しは閉じられたまま
喪装に伸びた黒髪を手櫛でかきあげる

…いいのよ
お坊さん…

口元を弛ませながら
やさしく微笑みかける女の細い手が若い僧侶の肩にふれた
折しもみずは昨夜のうちに葉脈をながれ
遠く山鴉の鳴き声があつい雲に響きわたる
小刻みに震える肩は盾となり
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