朝もや。/梓ゆい
 
特別に購入した特急券が

財布の中でひときわ目立っている。

朝日を浴びて飲む栄養ドリンクが

ラストスパートの合図にも聞こえ

一周する秒針に最後の一枚を託す。

外では帰省客がトランクを転がし

小さな子供が眠そうに歩いている。

パソコンの前で背伸びをする東京の私

今起きて

これから歯を磨く地元の父と母

正反対の生活を送る親子の上にも同じ光が降り注ぎ

明日囲むすきやきの肉が

いつもより高い位置で

家族の集まる瞬間を待っている。

「いつもより特別なのは、かけがえの無い時間。

いつもより特別なのは、誰かが居る食事の席。」

一枚の特急券が財布の中でひときわ目立ち

よそ行き様に下ろしたブラウスが

窓辺で美しくなびいている。


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