色愛/やまうちあつし
実さは残されたトロイの木馬であろう。
疑いは午前二時、天井裏に潜んだ太古のネズミの体から、滴り落ちる黒ずんだ赤色である。みるみるうちに部屋を満たし、息を詰まらせる。抜け出すことができるのは、魚以外ない。流線型の魚らが、泥土から泳ぎだしてゆく。
驚きは黄緑色だ。時間をかけて、じわじわと深まってゆく。
とまどいは薄い桃色をしている。
憎しみは金色に煌いて、誰であろうと真心を刺すだろう。
野良犬の声に色を与えるのはやめることだ。
野良猫は異教徒さながらに、あらゆる色を軽蔑している。
黒猫の歌はかえって白いかもしれない。
可能性は緑色、不可能性はこげ茶色。
倦怠は黒光りしている。昼間も真夜中も、同じ場所で突っ立っている。
真実に色はない。風と同じように。
孤独は銀色。誰かのポケットで静かに揺れている。
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