春とエレジー/月形半分子
で雷がなっている
とうとう春がくる
冷たく恐ろしかった冬からお前を救うはずの春風が
矢のようにうちつける雨を呼び
その身をひき裂く雷をひきつれているとは、誰が知ろう
桜よ
冬のあいだ
凍えては雪つぶてに叩かれ叩かれ固くなったお前の肌が
とうとうついに春に耐え切れずに
裂けはじめる いたるところ
いたるところ
硬い木肌の奥から、獣とも血ともつかぬ臭いが
見ず知らぬ人の鼻先にまで届くのだ
どんなにかお前は、今、辛いことだろう
その裂け目から
青ざめふるえるお前の瞳がみえる
その瞳が、苦しみをためて薄桃色に尖っては膨らんでいくのだ
どんなにか痛かろう
どんなにか苦しかろう
どんなにか辛かろう
桜 裂けよ 咲けよ と春に歌われて
咲きこぼれかけの、その薄らな桃色が
とうとう、いっせいに満開にちぎれるとき
春も人も、そこに天にも昇るお前の悲鳴を見るのだ
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