春とエレジー/月形半分子
 
で雷がなっている

とうとう春がくる

冷たく恐ろしかった冬からお前を救うはずの春風が

矢のようにうちつける雨を呼び

その身をひき裂く雷をひきつれているとは、誰が知ろう


桜よ

冬のあいだ

凍えては雪つぶてに叩かれ叩かれ固くなったお前の肌が

とうとうついに春に耐え切れずに

裂けはじめる いたるところ

いたるところ

硬い木肌の奥から、獣とも血ともつかぬ臭いが

見ず知らぬ人の鼻先にまで届くのだ


どんなにかお前は、今、辛いことだろう

その裂け目から

青ざめふるえるお前の瞳がみえる

その瞳が、苦しみをためて薄桃色に尖っては膨らんでいくのだ


どんなにか痛かろう

どんなにか苦しかろう

どんなにか辛かろう


桜 裂けよ 咲けよ と春に歌われて

咲きこぼれかけの、その薄らな桃色が

とうとう、いっせいに満開にちぎれるとき

春も人も、そこに天にも昇るお前の悲鳴を見るのだ 









戻る   Point(6)