冷えていく鉄/木屋 亞万
童貞のまま30歳を迎えれば、魔法が使えるようになる。そんなわけはないのだけれど、奥手で純朴な男たちの中には、そのことが孤独の支えになっていることもある。
百年経てば物には命が宿る。そんな言い伝えもある。いわゆる付喪神だ。最近はあまり見なくなったが百鬼夜行の類には、年季の入った生活用品がぞろぞろいたものだった。
「そんなわけあるはずがない」と理性では分かっていても、「もしかしたらどこかでそんなことが起きているのかもしれないぞ」と腹の底の方で、もぞもぞ動く予感のようなものがある。何事もそうやすやすと全否定はできない。
いまからちょうど百年近く前に作られた、命を宿しつつある鉄の塊も、その一人だった
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