平和を釣る/イナエ
 

  仕掛けがないと物足りないのだ
ひとり川に向かい 糸を垂れる
すると
男の周りを取り巻く無数の糸は断ち切られ
ただ一本の糸が川と繋がる
男はゆったりと川面を流れる雲を眺め
男の中を去来する想念
  兄姉の確執 子の将来
  会社の不満 社会の不安
を糸を通して
絶えず表情を変えて流れる川に話しかける
川は男の垂らすつぶやきを黙って聞き 流していく
こうして男の一日が暮れていく

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