自転車に乗って/梅昆布茶
 
まだ自転車に乗れなかったころ
ともだちの自転車を借り
田舎の緩い坂道をおそるおそる降りながら
何度も練習していた

不思議なことにあるときすっと自転車が自分のものになる
そんな瞬間を体験したのだが
そのときひとつちいさな自我が崩壊したのかもしれない
まるで地上の天使になったような気分だった

海岸沿いの国道を除けばモータリゼーションの波もまだ遠く
山並みと海岸線と田圃と風と陽光に満ちた自然の埃っぽいサーキットが
世界のすべてだった幸福な時代

はじめての自転車は
しっかりした実用的なもの
田舎のみせの店晒し品だが

それでも豊かではない家計のなかから
親が工面
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